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馬券王の能書き

馬券王矢口 復活せず


 競馬を始めて4年が経とうとしていた。俺は27歳になっていた。競馬予想を公開、販売していた頃の多忙な週末もなく、”馬券王”などと名乗っていたのが懐かしかった。何でHPのタイトルを「馬券生活者軍団 ~」としたのか。雑誌掲載時に誌面にも記させたが、「馬券(で)生活(できる)者軍団」であって「馬券(で)生活(している)者軍団」の馬券生活者ではない。堅気の仕事で金稼がねぇで、馬券生活者気取ってる奴なんて思われたくなかった。大体父親がギャンブルで金稼いでて、その金で家族が喰ってるなんてまともな家庭な訳がなく、子供がまともに育つ訳がない。俺は堅気の仕事で金を稼いでいるし、馬券購入はあくまでも副収入を得る為の手段という位置付け。仕事で生計がたつし、競馬が無ければ困るなどというヤバい考えを持った事は一瞬もない。

 ただHP競馬予想発信を辞めても、超効率よく副収入が入ってくる競馬は辞めなかった。時は金なり、俺に言わせりゃ時は命なり。時間が惜しいのもあってHPを畳んだが、金があり過ぎて困るってほど老いぼれてもない。何がそうさせたのか、何故かスカパーのフジTVチャンネル「競馬予想TV!」を見る為にわざわざフジTVチャンネルを契約。不況の日本を憂う神の見えざる手の仕業か、神は”馬券王”を目覚めさせたいのか、今になっても分からない。毎週見てみた。数名の予想家が自分の予想理論を駆使して日曜メインレースを予想、それに対して他の予想家からああでもないこうでもないと突っ込まれる。大の大人が競馬予想でトークバトルしてるその番組、なかなか面白かった。競馬専門紙看板TMも東大卒も関係無く、とにかく当たったモン勝ち儲かったモン勝ち。回収率はもちろん配分買い回収率で出している。コレって間違いなくガチンコ競馬予想番組だ。

 絶対に神の悪戯。じゃなきゃ何でHP畳んで3、4ヶ月しか経ってない俺が「『競馬予想TV!』に挑戦状!」叩き付けんの。俺は疲れたんだ、毎週末馬鹿相手にして競馬予想発信する事に。神様勘弁してくれ頼むから、もうちっと休ませてくれよ。HP畳むっつって舌の根も乾かないうちに、またHP始めますなんて出来る訳なかった。「おたくの番組に出演している予想家は支離滅裂だ!俺はかつて”馬券王”矢口を名乗り、馬券生活者軍団<IK>を主催し、HPにてどうのこうの、『競馬 最強の法則』という雑誌巻頭企画にてああだこうだ・・・・」って、俺は「競馬予想TV!」HPからメールを送信した。何なんだろ、俺は狂犬だと思っていたけど、パブロフの犬だったのかも知れない。競馬予想家を見ると条件反射的に挑発したくなっちまうようだ。しかも直接的な予想バトル番組。神はまだ悪戯をやめなかった、「1度お会いしましょう。」って返事が来ちまった。

 思い起こせば月刊誌『競馬 最強の法則』の時もそうだった、編集部のS嬢と大塚のレストランで会食した。「うちのスタッフが競馬場で何千万円も払戻してるオジサンを発見したのよ。次に行った時も偶然そのオジサンがまた何千万円も払戻してた。このオジサンは凄いって事で競馬雑誌に出てくれませんか?ってお願いしたの。でも、よくよく聞いてみたらそのオジサン、確実に儲かってはいるけど馬券術と言える物は無くて、当たりはするけど説明は出来ないって言うわけ。それじゃあ記事にならないのよね。誰がやっても同じ買い目が出せるって、それが馬券術って物だと思うのよ。」って話をされたから、俺が参戦した巻頭企画以外に、誰でも俺の言ったやり方をもってすれば儲かるという「札幌記念必勝法」を掲載させた。「1万円あれば1日にいくら稼げるか」という巻頭企画にしたって、馬券生活者軍団<IK>代表として、2000年7月8日(土)の1発勝負で1日10万8450円のプラス収支を計上し、馬券で生活する事が出来るという事をキッチリ見せつけた。皆が大好きな万馬券500倍を100円獲って5万円払戻すよりも、皆が言うところのたったの5倍を5万円獲って25万円払戻した方がいい。5万円じゃ生活出来なくても、25万円なら贅沢しなけりゃ1ヶ月生活出来るだろ。配当の比較はどうでもいいんだが、馬券生活者なら幾ら払戻したかが重要なんだ。回収率じゃ生活出来ねぇんだよ。だから追求すべきは回収率じゃねぇ、幾ら儲けるのかだ。何千万円も払戻した親父、もしかしたら複勝1.2倍を2000万円買ってたかも知れない。競馬予想的には大した事ないって思われがちだが、1レースで400万円の儲けだぜ。お前らががローン組んで買った車は幾らだって話。400万円稼ぐのに2000万円も賭けなきゃいけねーのかよって、そう思っちゃうんだろうな凡人君たちは。

 「競馬予想TV!」を制作している会社の人O(オー)氏とは、新橋の喫茶店で会った。俺は御丁寧に、巻頭企画に参戦した『競馬 最強の法則』2000年9月号、18万円で販売した<JRA攻略 最強のデータベース>「”馬券王”矢口の作り方」、有料予想配信をしていた事を証明する<IK>会費振込口座の銀行通帳数冊を持って、競馬を始めた1999年1月から2003年に入って数ヶ月までの事を洗いざらい喋った。まるで懺悔でもしているかのように。軽く涙でも流せば雰囲気出たかもだが。「競馬予想TV!に出演している予想家の中にも、もうどうしようもない人が数名います。ハッキリ言って出演して欲しくない人達。でもなかなかどうして、TVで競馬予想を展開出来る人って簡単に見つからないんですよね。矢口さんは顔もいいし、声もいいから、是非出演してもらいたいと思います。ただその前に数週間、矢口さんの予想方法で弾き出した買い目と買い目を出すに至った説明をメールで送ってもらえませんか。基本的に出演してもらいたいって方向なんで、当たり外れは気にしないで気軽に送って下さい。」とその人は言い、「僕はあの番組をメジャーリーグみたいに、競馬予想の最高峰に位置する番組にまでしたいんですよね。でも今の状態じゃほど遠いですけどね。」とも言った。

 俺がHPを畳む時、<”馬券王”の能書き>で「遺言」を書いた。結びの部分は、「まぁまた暇こいたら復活するかも知れねぇよ。ただ<JRA攻略 最強のデータベース>を販売した事もあるし、俺なき後の事を心配し18万円で「”馬券王”矢口の作り方」を買った奴等に悪ぃから、最低でも1、2年は休ませてもらうぜ。もし俺が復活したら、今まで以上の予想を展開してやっからよ。迷える子羊ども、来るか来ないか分からない”馬券王”矢口復活の日、首を長くして待っとけよ。その日はド派手な復活祭を頼むぜ。これで俺も自由だ!じゃあな~。ハハハハハハハハ」こんな感じ。HP閉鎖は2002年11月の事で、それから半年も経たないうちに番組制作会社のO氏と会った。俺は忙しい人間だと思うホント。<JRA攻略 最強のデータベース>は手放した。それを売った時点で他人の予想方法だし、別にデジタルじゃなきゃ馬券が当たらない訳はなく、個人的に使用する目的で新しい方法論を模索していた。だが神の悪戯なのか、魔が差したのか、「競馬予想TV!」に出る出ないの話にまで発展してしまい、説明出来ない買い目の出し方を模索してもしょうがない状態になってしまった。とりあえず当時発売されていた競馬予想支援ソフトを買って来て、<JRA攻略 最強のデータベース>に変わる競馬予想虎の巻を探す作業を始めた。

 俺は何でも思い立ったら止まらないから、新しい競馬予想虎の巻探しに没頭した。数週間予想を送ってくれと言われても、馬券術が無いんだから直ぐの直ぐには無理だった。1、2ヶ月待ってくれと言って、それとなく完成した物で早速メールしてみたのだが、結果は不的中。急ぎ早に競馬予想虎の巻を作ったところで、綿密に計算された精度の高い<JRA攻略 最強のデータベース>を上回る事はなく、俺から挑戦状を送り付けたのにもかかわらず、気が付いたら追う立場から追われる立場に陥っていた。これじゃダメに決まってる。しばらく「競馬予想TV!」の事は忘れよう。もう一丁、キチッと1から出直しだ。2003年は競馬予想虎の巻を完成させるだけでいい。2004年になったら検証してみて、使える代物に出来上がってから「競馬予想TV!」に再度挑戦状を送り付けてやる。そしてついに完成した。

 「競馬予想TV!」にこだわったのは、ガチンコ競馬予想番組と思ったからでもあるが、新橋の喫茶店で聞かされた夢。「メジャーリーグみたいに、競馬予想の最高峰に位置する番組」なんて、なかなか言える事じゃない。そんな事、こっ恥ずかしくて普通言えない。でも俺そんな人が嫌いじゃねんだよな。物を創る人間って、他人からどう思われようと確固たる理想・信念持ってる奴が多いよ。それを冷めたツラして、下らねぇとか言ってる奴等は創造力無ぇんだよね。だから他人が創り上げたレールの上に乗っかって、冷めた振りしようと他人を馬鹿にしようといんだけど結局テメェは一生歯車で終わるんだよ。デッケェ事する奴ってさ、良い悪い別にして確固たる理想・信念の下に行動してるよ。人の上に立つ奴とか、人に影響を与える奴って皆そうだよ。確固たる理想・信念の下に行動してりゃあ絶対にデケェ事出来るって訳じゃねんだけど、ただ何となく流されて生きてる奴なんかよりよっぽど立派だぜ。だから「競馬予想の最高峰に位置する番組」構想を聞いた時、この人は恥ずかしげもなく言ってるなぁ、面白い人だなぁと思った。神様の悪戯、俺の心をくすぐったよ。一度、お台場フジTVで収録している「競馬予想TV!」生放送の収録現場に呼んでもらった。市丸博司が思いのほか細長い高身長で驚いた記憶がある。

 一流スポーツ選手が長期に渡り欠場または引退してから復活を試みるケースがある。過去に築き上げた栄光という貯金があるから最初は注目を浴びるが、もう通用しないという事がすぐに分かってしまう。何故か。千代の富士が引退した時の言葉、「体力の限界」なんだよ。もうとっくにピーク過ぎてんの。かつての一流スポーツ選手もピークを過ぎた体力は急降下している。なのに金が目的なのか栄光が目的なのか、逆効果だという事も分からず復活を試みる。俺はどうか?ビギナーズラックで11万馬券当てて、運だけで競馬予想HP始めて、すぐボロが出てHP畳んだってか。ふざけんな。俺は超一流競馬予想家だぜ。宣言通り沈黙を守った。ピーク過ぎてるって、ナメんな。こちとら体力で競馬予想してる訳じゃねぇ。体じゃなくて頭使ってんだよ。体力に限界はあっても、俺の知力は無限大だぜ。

 またしばらく競馬予想発信して、引っかき回すだけ引っかき回して冬眠すっかな。誰が望もうと誰も望まなかろうと、馬券王矢口様降臨だ。覚悟しとけよ。俺は動き出したぜ。

 .....この調子で2004年に復活する寸前だったのだが、交通事故に遭ってしまい入院。これはまだ休めって事だと思い、冬眠続行となった。